そこにしかない







 はっきり言って出不精です。時間があれば家に居たい。遠出はしない。旅行なんて考えもしない。だけど行きました。どれくらいぶりでしょう、数年ぶりに旅行へ。なぜ、と聞かれれば誘われたから、それ以外に答えはない。仲の良い友人に行ってみないかと誘われて、この子たちと23日を共にしたら楽しいだろうと思ったから、それだけです。初めて日本を飛び出せることへの期待、というのももちろんあったのだけれど、いろいろあって結局国内旅行へ。紅葉が美しい金沢へ行って参りました。
 おいしいものを食べて、歴史を眺めて、不思議な形をした建物を体感して、紅葉を四角い画面に納めたけれど、旅のことを思い出して真っ先に思い浮かぶのは彼女たちの笑顔と笑い声だった。あるいはパンケーキを頬張って「うんまっ」と叫ぶその声だろうか。ベッドから落ちそうになるくらいにはしゃいだり、破裂するみたいな馬鹿笑いや、前を歩く女の子のかわいらしい姿やそんなことばかりが思い浮かぶ。
 人がそこにしかない何かを求めて旅に出るのなら、私には旅に出る理由がないと思っていた。私が欲しいものはいつも手の届くところにある。知らない場所で出会う人や景色や建物の魅力が分からないわけじゃないけれどここにあるものの魅力には勝らない。だからわざわざ知らないどこかへ行かなくても心安らぐここがいいと思ってきたけれど、この旅で私が感じた幸せな瞬間も全部、本当はそこにしかないものだったのかもしれない。そうだとしたなら、私はまた知らないどこかへ旅がしたい。

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