nushi







右足首の少し上あたり、脛の辺りにしがみついてたんだ。大きな大きなバッタがこちらを見上げてた。人間の手のひらぐらいの大きさ。心臓が久しぶりにギュンってなって思いっきり振り払った。私に叩かれて飛んで行ったバッタをよく見ると後ろ脚が片方なかった。突然すまない気持ちに襲われて逃げるように家の中へ隠れた。
翌朝、仕事へ出かける時何気なく庭へ目をやるとそいつが草の影からこちらを見ていた。一瞬目が合った気がしたけれど、バッタの目がどこだか知らないことに気が付いた。
あれは庭の主だったんだろうか。子どもの頃、庭の主はカエルだった。大きな土色をしたガマガエル。雨の時期になると声がして、夜には玄関の前に姿を現して驚かされていたのに。いつからか姿を見なくなって、最近では声も聞いていない。
いつから、なぜ、と考えて気が付いた。庭に生えてくる草を抜き易いように数年前に土の上に砂利を敷き詰めた。粒の小さなグレイの砂利だ。土が残ったのは育てている植物の根元だけだった。あのガマは模様まで土にそっくりだったから砂利の上では姿を隠せなくなってしまったのかもしれない。
砂利を敷いても草取りをしない我々の生活習慣は変わらず、結局庭はいつだって草だらけだ。そのせいで草に身を隠すのが得意なバッタがやってきて主になったのかもしれない。私たちが無くしたかったのは好き放題に生え続ける草だったのに、主が入れ替わっただけでそれ以外の効果を得ることはできなかった。庭の主がカエルでもバッタでも正直どちらでも構わない。でも私たちが身勝手に居場所を奪ってしまったカエルの主には、次の居場所を見つけて幸せに過ごしていてほしいと願っている。

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