恋ではなくて







 いい人に会うと怖くなる。笑顔で話しかけてくれたり、柔らかい物腰で穏やかに話を聞いてくれたり、当然のことのように助けてくれたり。そういう優しさに触れた途端、喜びのすぐ後に不安がやってくる。なぜって返せる気がしないから。私が受け取ったその人からの親切、優しさ、その他もろもろ。私には上手に返せるはずがない。もちろん返したい、優しくしたい気持ちはある。だけどそれを上手に表現できない。ぎこちない笑顔、気を遣わせる気遣い、そんなもの見せられても損しかしない。大体、助けられてる分際で助けてなんてあげられるはずないじゃないですか。そんなの分かってる。
だけど素敵な人となら仲良くだってなりたい訳で、それなのにあなたの仲良しにふさわしい私では今までもこれからもないのでした。
 だからあなたみたいないい人と出会うと逃げたくなる。遠ざかりたくなる。関わりたくなくなる。こんなに素敵で大好きなあなたに何もしてあげられないどころか、感謝していること、仲良くなりたいこと、大好きなことを上手に伝えることさえも出来ない自分への自己嫌悪で苦しくて堪らなくなるから。
 ああ昔なら泥だらけの手であなたの手を握るだけで仲良しになりたい気持ちが伝わったのに。今はたった一人としか手を繋いではいけないことになってしまった。
 あなたがエスパーだったなら、なんてことはきっと多分あるはずがないので淡い期待をするのはやめて、せめて少しでも返せるように逃げずに今日も会いに行きます。

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