むらさき





 紫になりたい。ときどき首の後ろからしたい心の声がする。今は紫のときらしい。白いパンツを紫のペンキに浸して身に着ける。指先には小さな筆を使って塗り付けて、唇も頬もまぶたも、体のどこもかしこも染め上げて得意顔。
 冬には赤で、その前はグレーだった。入れ替わり立ち代わり違うものがやってきて、去っていく。いなくなっても消えることなく次から次にやってきて、頭の後ろを砂嵐のような雑音と共に駆け抜ける。私はいつもそれを無視できない。むしろ聞き逃さないように次の声をじっと待っている。うるさ過ぎて聞き逃すことなんて出来るはずがないのに。そして、瞬きもしない目は赤くなり、暗いのをいいことに見て見ぬふりをする。雑音の波から出られない。出たくない。
 外へ出れば日の差す丘の上。緑の草原が広がって花は笑い、あたたかい。そこでは白があればよくて他には何もいらない場所。理想郷。心の中でだけ輝く場所。欲しがることを止めてしまえば息の仕方を忘れてしまう、なんてことないことぐらい知っている。走るのを止めても生きられる。マグロとは違う。止まればきっと苦しさもなくなり柔らかい何かを取り戻す。それを振り払って走り続けるのはほかならぬ自らの意志。そうでなくてはならないと奥歯を噛みしめながら、今日も私は鏡の前に座る。

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