バレンタインだから愛のようなはなし




例えば、君が目を覚ます前にキッチンへ行く

朝の青白い空気にコーヒーの香りを送り出し

君が意識を取り戻しはじめた気配を感じながら

熱いお湯を注いでいく

身体を起こしたばかりの君にカップを差し出すと

君は『いつもありがとう』と言うけれど

起き抜けの君の笑顔を私がほしいだけ



あなたは花を売る人

冬に冷たい水に触れて白く光る手が美しい

あなたはこれまでにたくさんの花をくれた

誕生日の夜に

木漏れ日が心地よい日曜日の午後に

ふたりの大切な日に

あなたは言った

『君は私の一番大切な花』

花のように笑うのはあなたの方なのに



なぜ花屋になったの

聞いた事がある

『不器用だから、何かを作るのが苦手なの

でも花は私が何もしなくてもきれいでしょだから花を売るの

世界中の美しい花を誰かのささやかな日常の中に飾る

その手伝いができたらそんなに素敵なことはないと思って』

そう言ってあなたはまた花のように笑った

確かにあなたは不器用で

あの白いきれいな手で折った鶴はとても不格好だった

私の折った鶴もその隣で頼りなく羽を広げていたけれど



私たちはふたりとも不器用で

何かを作り出す事には向いていないようだ

でもあなたはいつも私の中にあたたかい明かりを灯してくれる

明日も生きていこう

また笑いたい

あなたを生み出してくれたこの世界を好きでいよう

目には見えないけれど

あなたは私の中にそんな光を生み出している

例えば、毎朝コーヒーを手渡してくれる

その瞬間とかに


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