節目





引っ越しをした。

荷物のなくなった部屋の扉を開けると、ドアノブをひねる音が、続いて扉が閉まる音が、部屋の奥まで響いた。

空っぽは視覚からではなくて、空気が震えて響く事で、耳と肌から体の中に入ってくるのだと思った。

別に誰かに会えなくなるような長距離の引っ越しでもないのに、何かが終わる気配を感じてさみしさが心を掠める。そんな気持ちでひねった洗面所のドアノブはやけに軽くて、少し勢いよくドアを開いてしまう。

卒業とかその中の別れとか、何度も繰り返してその度にありきたりな寂しさを感じて、それまで過ごしてきた覚えてもいない日常をやけにまぶしく感じたりして、入学して卒業して入学して、そのあとにまた卒業があって、繰り返すうちにそこにある感情は幻でしかなくて、驚くほどに変わるものなんてなくて、特に自分はそのままで、始まっていないものが無くなるだけで、続くものは続き、今歩いている道がそのままに繋がっていくことを知っているはずなのに、また同じような気持ちが空気の震えを伝って入ってこようとしている。

こういう時に必要なものは、今まで楽しかったありがとう、これからも頑張ろう。それだけでいいと思いながらも、すっかり冬に冷やされた空気は、きれいで、気持ちがよかった。

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