赤は止まれ



深夜に道を歩いていて、信号が赤の時、私は立ち止まる。道路に車が一台も走っていなくても。車どころか人すら歩いていない時でも。
静まりかえった夜の道に何の意味もなく立ち止まっていると、自分でも馬鹿らしくなって笑えて来る。その感じが好きだ。

だけど時々、立ち止まっている私の後ろから人が歩いてきて、止まらずに赤信号を渡っていく。
その背中は、どこか軽やかに見えて、私には届かない世界を感じさせる。
私はきっとその背中に憧れている。意味のないルールを飛び越えてほしいものに真っすぐ向かっていく軽やかさに。
私を追い越していった彼は、私には見えていない世界を見ている気がする。
私にもあるのだろうか。彼らには見えなくて立ち止まっている私にしか見えない世界が。そして、その世界に価値はあるのだろうか。
人が簡単に生き方を変えられないのは、一方の生き方を捨ててみてからでないとその価値が分からなくて、捨てた後にはもうそこに戻ることが出来ないからだと思う。だから、今自分が持っている物と持っていない物と、どちらの方が自分にとって価値があるものなのか比べてみて選ぶ事が出来ない。

このままずっとここに立ち止まっていたら、もっと自由に生きていればって、いつか後悔しそうだ。
死ぬ時とかに。
でもそうしたら、また馬鹿みたいって笑えばいいか。

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